大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)478号 判決

控訴人(原告)

石毛孝

ほか二名

被控訴人(被告)

丸五起業株式会社

ほか一名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人ら訴訟代理人は、「(一) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。(二) 被控訴人らは各自控訴人石毛孝及び同石毛智恵子に対し、各金八五五万八五〇二円及びこれに対する昭和五二年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに金三二万円に対する昭和五二年七月二六日から同五四年一〇月三日まで年五分の割合による金員を支払え。(三) 被控訴人らは各自控訴人石毛千晴に対し金二九〇万円及びこれに対する昭和五二年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに金四万円に対する昭和五二年七月二六日から同五四年一〇月三日まで年五分の割合による金員を支払え。(四) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、本件各控訴を棄却するとの判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。

(1)  原判決三枚目裏一行目から二行目にかけての「被告会社の代表取締役であり」を「本件事故当時被控訴会社の代表取締役であつた者であり」と改め、末行「交差点は、」の次に「当時車両通行の稀な」を加える。

(2)  同四枚目表三行目「と共」を「(当時八歳、小学三年生)の付添誘導のもと」と改め、八行目「あらため」から末行「動向に」までを「同交差点内で停止し、再び前進して左折走行に移るという異常な運転操作をし、その間左折走行しようとした昭和通り方面の道路左側に駐車する車両の横を通り抜けることにもつぱら気を奪われ、同交差点西側を横断する歩行者の有無並びにその動静」と改める。

(3)  同四枚目裏六行目「被告塙初江は」を「本件事故は、本件ダンプカー運転の鄭が、被控訴会社の業務執行中に惹起したものであり、被控訴人塙は、当時被控訴会社の代表取締役として被控訴会社に代つて右業務を監督する立場にあつた者であるから」と改める。

(4)  同八枚目裏末行「初江が」の次に「本件事故当時」を加え、同九枚目表一行目「ある」を「あつた」と改める。

(5)  同一一枚目裏一〇行目「提出し、」の次に「甲第一七号証の一ないし四は、石毛源太郎が昭和五二年七月二六日本件事故現場を撮影した写真、同第一八号証の一は、石毛智恵子が昭和五二年五月一九日に石毛千晴と石毛秀明を撮影した写真、同号証の二は、石毛智恵子が同日石毛隆太と石毛秀明を撮影した写真であると述べ、」を加える。

(6)  同一二枚目表末行「成立」の次に「(第一七号証の一ないし四、第一八号証の一、二については控訴人ら主張のような写真であること)」を加える。

(7)  証拠として、控訴人ら代理人は、甲第二〇、二一号証を提出し、当審証人石毛源太郎の証言を援用し、後記乙号各証の成立を認めると述べ、被控訴人ら訴訟代理人は、乙第二八、二九号証を提出し、前記甲号各証の成立は知らないと述べた。

理由

一  当裁判所は、控訴人らの本件各請求を原審の認容した限度で認容すべく、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。

(1)  原判決一二枚目裏五行目「塙初江が」の次に「本件事故当時」を加え、同行「ある」を「あつた」と改め、七行目から八行目にかけての「第一七号証の一ないし四、第一八号証の一、二」を削る。

(2)  同一三枚目表四行目「号証」の次に「、控訴人主張のような写真であることについて当事者間に争いがない甲第一七号証の一ないし四、第一八号証の一、二、当審証人石毛源太郎の証言」を加え、五行目「前記」から同裏一〇行目「死亡させたこと」までを次のとおり改める。

「本件事故当日午前六時半ごろ被控訴会社に出勤し、同社所有の大型貨物自動車(一〇トンダンプカー)を運転して午前六時四五分ごろ、被控訴会社の業務である残土運搬のため同社を出発したこと、ところで、鄭の従事する業務内容は、前日に引き続き右ダンプカーを運転して本件事故地点から西方の昭和通り方面へ約二五メートル南下した道路左側の四階建マンシヨン建設工事現場の基礎工事から排出される残土(ヘドロ)を、千葉県浦安市内の埋立地まで運搬投棄する作業であつたこと、そこで、鄭は右建設工事現場へ到着するため、控訴人らの自宅前を南北に通ずる裏通り(幅員車道七メートル、両側歩道幅員各二メートル)を言問通り方面から入谷市場方面へ向けて時速約三〇キロメートルで走行し、本件建設現場に通ずる交通整理の行われていない本件交差点に差しかかり、同交差点において東西に交差する道路(幅員六メートル、内北側路側帯一・三五メートル)を西(昭和通り方面)へ左折しようとしたが、一瞬同方面道路左側(南側)約一一メートル前方に小型トラツクが駐車しており、そのやや斜め手前の道路右側(北側)路側帯に電柱が立つていることを認め、その中間を安全に通り抜けすることができるか否かを確認するため、同交差点ですぐに左折走行に移ることなく、そのまま少し直進し、同交差点の北端附近(入谷市場方面出口附近)まで走行して数秒間停車し、右駐車々両の横を安全に通り抜けできることを確認して、同交差点を後退し、約四メートル後戻りした地点で停車し、その数秒後前進して左折走行を開始したが、折から同交差点西側を北(入谷市場方面)へ向けて幼児用三輪車に乗り横断中の石毛秀明(当時二歳五月)に全く気付かず、約三メートル走行して車体が昭和通り方面道路に約四五度向いた地点で、同車左側前輪寄りサイドガード付近を秀明に接触させて同人をその場に転倒させ、さらに同車左側の前後々輪に同人の頭部を巻き込み、数メートル引きずつて轢過し、同人を頭蓋、顔面骨粉砕骨折、脳挫滅によりその場で即死させ、鄭は右接触地点から約七メートル走行した地点で、控訴人石毛千晴の叫び声を聞き異常を感じて制動措置をとり、右接触地点から約一四メートル走行して右駐車々両の中央右横附近で停車したこと、鄭は、本件交差点に到達する直前から秀明に接触するまでの間(この間に同交差点北端まで行つて停止し、約四メートル後退して再び停止し、その後時速七、八粁でゆつくり前進して左折した。)右ダンプカー左側の安全確認については、右後退時一瞬バツクミラーを見たものの、左折後の進行方向(昭和通り方向)左側に駐車していた小型トラツクの横を通り抜ける点に気をとられ、折から同交差点南西角付近歩道上から同交差点西側を入谷市場方面へ向け横断しようとしていた秀明に全く気付かなかつたものであること、なお、右ダンプカーの運転席からは、同車左側バツクミラー及びサイドミラーにより、鄭が最初停止した本件交差点北端付近においては本件交差点南西端付近歩道上を、さらに後退後前進左折開始から秀明に接触するまでの間においては同交差点南西端付近を視認することが可能であつたこと、一方、控訴人石毛千晴は、当日本件事故前、本件事故地点から約一〇〇メートル言問通り方面に戻つた道路左側にある自宅から、母親の控訴人石毛智恵子の了解のもとに同千晴が子供用自転車で秀明が幼児用三輪車で散歩に乗り出し、同道路西側歩道を同控訴人が秀明の手を取り、両名並んで乗つたまま両足を地面に着けて歩く様にして進み、本件交差点南西角付近の歩道上に達したこと、そこで同控訴人は秀明と共に同交差点を北(入谷市場方向)に渡ろうとしたが、安全に渡れるように接近する車両の有無及びその動静を確めようとして、秀明を同交差点南西角付近の歩道上に待機させ、先ず同控訴人が同交差点を入谷市場方面に向けて横断し、同交差点で交差する南北、東西の道路上の車両の接近状況を確認し、後方(言問通り方向)から右ダンプカーが接近して来るのを認めたが、他に走行する車両がなく、右ダンプカーは同控訴人が見た時左折の合図をしていなかつたので同交差点を直進走行するものと判断し、三輪車に乗つたまま待つていた秀明に「いいよ」と言つて同控訴人の後に続いて横断するように促し、その直後右ダンプカーが前記のとおり同交差点北端に達して停止し、再び後退発進するのを認め、近くの工事現場に赴くため左折走行することを察知し、横断をしようとした秀明に対し何回も声と手で合図して来ないように制止したが、秀明はこれを理解できず、ダンプカーが左折してくるのに注意を払わないで横断のためその前方道路に出たため、右ダンプカーに接触転倒したものであること、なお、本件事故地点付近の本件事故時ごろの車両の通行量は、二分間に数台程度であつたが、控訴人石毛智恵子は近くに建設現場のあることを当時知つていたこと」

(3)  同一六枚目表一行目「よつては」を「よつても」と改める。

(4)  同一七枚目裏三行目「亡石毛秀明」から同一八枚目表七行目「める。」までを次のとおり改める。

「前記認定事実によれば、本件事故の発生は、交差点内を前記のような変則的な運転操作をして左折走行し、かつ、その際自車左側(南)から右側(北)へ横断しようとしていた秀明に気がつかないままで進行した鄭の過失に基くものであるが、一方秀明の親権者である控訴人石毛智恵子は、自宅近くの建設現場でマンシヨンの建築工事が行われていたことを知つており(控訴人石毛孝も知つていたものと推認される。)、その作業車の往来を予想することができたものというべきところ、控訴人石毛千晴は当時八歳で一人で散歩に出るのとは異なり、幼児用三輪車に乗つた当時二歳五月の秀明を連れ、しかも自分も自転車に乗つて散歩に出るのであるから、このような場合秀明の付添として小学三年の控訴人石毛千晴では不十分であり(千晴の年齢でこれを要求するのは無理であるが、幼児を連れて交差点を横断する時の鉄則は幼児から離れずその行動を直接制御することである。)、控訴人石毛孝又は同石毛智恵子が自ら秀明の右散歩に付添い(なんらかの事情で二人とも付添いが不可能ならば出すべきでない。)、交差点を横断する場合には秀明を幼児用三輪車から降ろし、その手を握るなどして直接(物理的に)秀明の行動を制御しうるようにして安全を確認した上で横断すべきところ、右配慮に欠ける点があつたものというべく、この点の配慮を尽していたならば、本件事故を回避しえたものと考えられるのであつて、秀明は満二歳五月の幼児で事理の弁識能力がないため過失を認めることができないが右のような親権者である控訴人石毛孝及び同石毛智恵子の過失は、被害者側の過失として本件損害賠償額算定上斟酌すべきであり、鄭の前記過失と対比するときは、一〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。」

二  以上のとおりであつて、原判決は相当であり、控訴人らの本件各控訴は理由がないからいずれもこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川添萬夫 高野耕一 相良甲子彦)

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